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野生エンマーコムギ

野生エンマーコムギ

Triticum dicoccoides

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野生エンマーコムギ(Triticum dicoccoides)は、野生の自家不和合性を持つ四倍体のコムギ種であり、栽培化されたエンマーコムギ(Triticum dicoccum)の直接の野生祖先です。このエンマーコムギから、世界中でパスタ製造に主に使用されているデュラムコムギ(Triticum durum)へと進化しました。

• イネ科(イネ科植物)に属し、地球上で最も経済的に重要な植物科の一つです
• 殻付きコムギの一種で、堅い穎(こう)が粒をしっかりと包み込んでおり、食用の胚乳を取り出すには機械的な処理が必要です
• 新石器時代革命の基盤作物の一つと見なされており、人類が狩猟採集社会から定住農業へと移行するきっかけとなりました
• 乾燥耐性、病害抵抗性、栄養品質など、栽培化の過程で失われた形質を含む、豊かな遺伝的多様性の宝庫です

野生エンマーコムギは「生きた遺伝子の宝庫」と見なされており、気候変動や新たな病害の脅威に直面する現代の栽培コムギ品種を改良するための、育種家にとって不可欠な資源を提供しています。

分類

Plantae
Tracheophyta
Liliopsida
Poales
Poaceae
Triticum
Species Triticum dicoccoides
野生エンマーコムギは中東の肥沃な三日月地帯を原産地とし、その起源の中心および最大の遺伝的多様性は、トルコ南東部、シリア北部、イラク北部、イラン西部の山岳地帯に集中しています。

• 約 1 万年前(紀元前 9,500 年〜9,000 年頃)、レバント南部で初めて栽培化されました
• シリアのアブ・フレイレ遺跡やヨルダン渓谷のジェリコ遺跡などの考古学的証拠は、野生種の採集から栽培への移行を記録しています
• 栽培化のプロセスには主要な遺伝的変化が含まれており、特に野生型で見られる「もろい穂軸(成熟すると種子を散布するために砕ける)」から、人間による収穫のために種子を保持する「もろくない穂軸」への進化が顕著です
• ゲノム研究により、野生エンマーコムギが異質四倍体(AABB ゲノム、2n = 4x = 28)であり、2 種の二倍体の野生イネ科植物の自然な交雑に由来することが確認されています。
• ゲノム A の供与種:野生のエンコーンコムギである Triticum urartu に近縁
• ゲノム B の供与種:Aegilops 属の Sitopsis 節(おそらく Aegilops speltoides)に関連する、絶滅済みまたは未だ同定されていない種と考えられる
• この交雑事象は、約 30 万〜50 万年前に起こったと推定されています
• 野生エンマーコムギの個体群は、その分布域全体で顕著な遺伝的変異を示しており、多様な微小気候、標高、土壌タイプへの適応を反映しています
野生エンマーコムギは一年生で自家受粉するイネ科植物であり、通常 60〜120 cm の高さに生育します。

茎(稈):
• 直立し、細く、節間は中空で節が詰まっています
• 1 株あたり通常 2〜5 本の出穂(分げつ)があります
• 表面は滑らかからやや有毛です

葉:
• 葉身は扁平で線状披針形、長さ 15〜30 cm、幅 0.5〜1.5 cm です
• 葉舌は短く膜質です
• 耳片(じへん)があり茎を抱き、しばしば微細な毛を持ちます
• 葉の表面は無毛か、まばらに微細な毛(トリコーム)に覆われています

花序:
• 密で側扁した穂(穂状花序)。長さ 5〜12 cm
• 小穂は穂軸に沿って 2 列に並び、各節に 2 つの小穂が付きます
• 各小穂には通常 2 つの稔性小花が含まれます
• 野生型では穂軸がもろく、成熟すると各小穂の基部で離層が生じて断片化し、個々の小穂を散布します

穎(こう):
• 堅く、竜骨があり、小花をしっかりと包み込みます
• 各穎の先端には 5〜15 cm の長さの目立つ芒(のぎ:針状の付属物)があります
• 芒は吸湿性があり、湿度の変化に応じてねじれたり戻ったりすることで、小穂を土壌中に自ら埋めるのを助けます

穀粒(穎果):
• 細長く側扁し、長さ 7〜10 mm
• 堅い内穎と外皮に包まれています(殻付き穀粒)
• 色は淡い黄褐色から赤茶色まで様々です
• 千粒重は約 20〜35 g(現代の栽培コムギより軽量です)

根系:
• ひげ根で、比較的浅いですが広範囲に広がります
• 乾燥条件下では 50〜100 cm の深さに達する能力があります
野生エンマーコムギは、東地中海および西アジアの景観に見られる、開放的で季節的に乾燥する環境で繁栄します。

生育地:
• 開放的なコナラ属の林床や草原の斜面
• 岩の多い斜面や玄武岩の平地
• 耕作地の周辺や攪乱された土地
• 標高範囲:通常、海抜 200〜1,500 m

気候:
• 冬は涼しく湿り、夏は暑く乾燥する地中海性気候
• 年間降水量:300〜800 mm。冬季の成長期に集中
• 成長サイクル:秋の雨で発芽し、ロゼット状で越冬。春に成長を再開し、晩春から初夏に成熟します

土壌:
• 水はけの良い石灰質(石灰岩由来)の土壌を好みます
• 岩が多く、浅く、栄養分の少ない基質にも耐性があります
• pH 範囲:中性から弱アルカリ性(pH 7.0〜8.0)

生態的相互作用:
• Puccinia striiformis(縞さび病)や Blumeria graminis(うどんこ病)など、いくつかのコムギ病原体の宿主となり、作物と病害の共進化を研究する上で重要な種となっています
• 栄養成長段階では野生の草食動物の飼料となります
• 種子は風、水、動物の体毛、そして芒の吸湿性による穿孔作用によって散布されます
• 個体群はしばしば他の野生穀物(オオムギ属の Hordeum spontaneum など)やマメ科植物と混在して群落を形成します
野生エンマーコムギの個体群は、世界の食料安全保障のための遺伝資源として極めて重要であるにもかかわらず、いくつかの脅威に直面しています。

脅威:
• 農地拡大、都市化、過放牧による生息地の喪失
• 気候変動 — 降水量パターンの変化や気温の上昇により、適した生息地が減少する可能性があります
• 遺伝的浸食 — 伝統的な農法から現代的な単一栽培への移行により、野生種と栽培種が共存する界面が減少しています
• 小規模で分断された個体群は、遺伝的浮動や近親交配による衰退の脆弱性があります

保全の取り組み:
• 域外保全:種子がジョン・イネス・センター(英国)、USDA 国立小粒穀物コレクション(米国)、イスラエル遺伝子バンクなど、世界中の遺伝子バンクに保存されています
• 域内保全:イスラエル(ガリラヤのアミアドおよびタブガ保護区など)、トルコ、その他肥沃な三日月地帯の自然保護区内に保護された個体群が存在します
• イスラエルのアミアド個体群は 1980 年代以降長期にわたり生態学的・遺伝学的モニタリングの対象となっており、遺伝的多様性の動態に関する貴重なデータを提供しています
• 「食料および農業のための植物遺伝資源に関する国際条約(ITPGRFA)」などの国際条約は、野生コムギの遺伝資源へのアクセスと利益配分を促進しています
野生エンマーコムギは通常、商業作物として栽培されることはなく、育種や保全の目的で研究施設、遺伝子バンク、試験農場などで栽培されます。

日照:
• 日向を好みます。最適な成長と登熟のためには強い光量が必要です

土壌:
• 水はけの良い壌土〜粘質壌土
• 貧弱、岩石質、石灰質の土壌にも耐性があります
• 過湿状態は避けてください

水やり:
• 原産地では雨頼みですが、乾燥した年には補助的な灌漑が必要になる場合があります
• 定着後は乾燥に強いですが、登熟期の長期間の水分ストレスは収量を減少させます

温度:
• 最適な生育温度:栄養成長期で 10〜20°C
• 開花を開始するために春化(約 0〜10°C の低温への 4〜8 週間の曝露)を必要とします
• 生殖段階での晩春の霜に敏感です

繁殖:
• 種子による繁殖。自然な発芽時期を模倣するため、秋(北半球では 10 月〜11 月)に播種します
• 実験室環境で均一な発芽を得るためには、種子の傷つけ処理や芒の除去が必要になる場合があります
• 自家受粉性。圃場条件下での交雑を防ぐには、2〜3 m の隔離距離で十分です

一般的な問題点:
• さび病(縞さび病、茎さび病、葉さび病)に罹りやすい — 皮肉なことに、この感受性の研究自体が主要な研究目標の一つとなっています
• 背が高く細い茎のため、肥沃な土壌では倒伏(茎が曲がること)が起こることがあります
• 成熟した穂に対する鳥やネズミなどの捕食
野生エンマーコムギは直接的な商業利用は限られていますが、コムギの育種や科学研究への貢献を通じて、計り知れない間接的価値を持っています。

作物改良のための遺伝資源:
• 縞さび病(Yr15 遺伝子)、うどんこ病、コムギ葉さび病など、複数の病害に対する抵抗性遺伝子の供給源です
• 乾燥耐性、耐暑性、養分利用効率に関する対立遺伝子を有しています
• 穀物タンパク質含量の向上、微量栄養素(亜鉛、鉄)の高密度化、栄養品質の向上に関与する遺伝子を含んでいます
• 穀物のタンパク質、亜鉛、鉄の含有量を増加させる野生エンマーコムギ由来の Gpc-B1 遺伝子は、現代のコムギ品種に導入されています

考古学的・歴史的意義:
• 農業の起源と新石器時代革命を理解する上での鍵となる種です
• 野生エンマーの植物考古学的遺存物は、コムギの栽培化の年代と地理的広がりを追跡するために使用されます

特殊および伝統的食品:
• 職人の農家や伝統的穀物の愛好家によって、特殊なパン、粥、伝統料理のために時折栽培されます
• 殻付き穀粒であるため、消費前にもみすり(脱穀)が必要です。風味は現代のコムギよりもナッツのような香ばしさと複雑さがあると表現されることが多いです

科学研究:
• 倍数性、栽培化遺伝学、作物と野生種の遺伝子流動を研究するためのモデル種です
• コムギの A、B、D ゲノムの進化を理解するためのゲノム研究に利用されています

豆知識

野生エンマーコムギは、自然界で最も洗練された種子散布メカニズムの一つを持っています。それは、長く剛毛状の芒が小さな「ドリル」として機能し、種子を自力で土壌中に植え込むというものです。 自己埋没メカニズム: • 芒は吸湿性があり、湿った夜の空気から水分を吸収してまっすぐに伸び、昼間に乾燥すると巻き上がります • この交互のねじれと戻りの動きが、芒の表面にある下向きの毛と組み合わさることで、ラチェット(逆止め)のような動きが生じ、小穂をゆっくりと先端から土壌中に押し込みます • 数日間の湿潤と乾燥のサイクルにより、小穂は数センチも地中に潜り込むことができます • このメカニズムにより、動物や人間の介入に依存せず、種子が発芽に最適な深さに埋まることが保証されます 遺伝的な宝庫: • 野生エンマーコムギは、現代のパンコムギに比べて約 50% も遺伝的多様性が豊富です。これは、栽培種の遺伝子プールを狭めてきた数千年に及ぶ選択的育種を反映しています • たった一つの野生エンマーの個体群が、数千種類の現代コムギ品種全体に存在するよりも多くの遺伝的変異を含んでいる可能性があります • 科学者たちは、野生エンマーが有する有用な遺伝的多様性の 20% 未満しか現代のコムギ育種で利用されていないと推定しています。残りの 80% は、将来の作物改良のための未踏査の宝庫なのです 古代 DNA: • 2015 年、研究者たちはエジプトの遺跡で発見された約 3,000 年前のエンマーコムギの粒から古代 DNA を抽出・配列決定することに成功しました。これにより、古代のコムギ交易や農業慣行に関する直接的な遺伝的証拠が得られました

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