アメシスト・ディーシーバー(Laccaria amethystina)は、ハイドナンギア科に属する小型で鮮やかな紫色が印象的なキノコです。その名が示す通り、この菌は偽装の名手であり、鮮烈なアメシスト色は老化や風雨によって劇的に褪せるため、古い個体の同定は非常に困難であることで知られています。
• 新鮮な状態では、温帯林において最も視覚的に特徴的なキノコの一つです
• その鮮やかな紫色は、キノコ界でも最も強烈な色彩の一つです
• その美しさとは裏腹に、色が褪せやすいため、野外での確実な同定が難しい種とされています
• 属名のラッカリア(Laccaria)は、ラテン語の「lacca(ラッカーまたは樹脂)」に由来し、本属の一部の種に見られる光沢のある外観を指しています
• 原生地はヨーロッパ、温帯アジア、北アメリカにまたがっています
• 低地の森林から山地の林まで、幅広い標高帯で発見されます
• ラッカリア属は世界に約 40〜70 種が含まれ、温帯および熱帯の双方に多様性の中心があります
• ラッカリア属の種らは外生菌根菌として最も古い系統群の一つであり、分子証拠からは、本属が白亜紀に宿主である樹木らの放散と時を同じくして分岐したことが示唆されています
菌傘(かさ):
• 直径 1〜6 cm
• 幼時は饅頭型ですが、成長するにつれて扁平、あるいはやや中央が凹んだ形状になります
• 表面は吸湿性があり、湿っているときは鮮やかなアメシスト色から紫色を呈しますが、乾燥すると淡いライラック色、淡褐色、あるいはほぼ白色に褪せます
• 縁部は湿っているとき、しばしばわずかに条線(溝)を持ちます
• 表面の質感は、特に中央部にかけて微細な鱗片状、あるいは繊維状をしています
菌褶(ひだ):
• 直生からやや垂生、まばらに配列します
• 幼時はかさと同じ紫色ですが、加齢とともに褪せます
• ひだは、他の多くの小型ハラタケ類と比較して、著しく厚く肉厚です
菌柄(え):
• 高さ 4〜10 cm、太さ 0.3〜1 cm
• 繊維質で丈夫、しばしばねじれたり、扁平化したりします
• かさと同じ紫色ですが、加齢とともに褪せます
• 基部は、しばしば微細な紫色の繊維に覆われています
• 内部は繊維質で、老成すると中空になります
肉:
• 薄く、紫色を帯びていますが、褪せて淡色になります
• 特筆すべき特有の匂いや味はありません
胞子:
• 胞子紋は白色です
• 胞子は球形で直径 7〜10 μm、顕著ないぼ(棘状突起)を持ちます
• 胞子形成細胞(担子器)は棍棒状で、4 胞子性です
• ブナ属(Fagus)、コナラ属(Quercus)、カバノキ属(Betula)、および様々な針葉樹と主に外生菌根を形成します
• 落葉広葉樹林および混交針葉樹林の双方で見られます
• 晩夏から秋にかけて子実体を形成します(北半球では通常 8 月から 11 月)
• 腐葉土や腐植に富んだ土壌中で従属栄養的に生育し、しばしば単独、あるいは散在する集団で発生します
• 酸性から中性の土壌を好みます
• 栄養交換において重要な生態学的役割を果たします。菌糸は宿主の樹木の実効的な根圏を拡大し、光合成由来の炭素化合物と引き換えに、リンや窒素の吸収を促進します
• 菌糸ネットワークは、子実体が見られない期間でさえも、土壌中に長期間存続することがあります
• 適切な宿主の樹木がなければ、鉢や庭床で栽培することはできません
• 自然発生を促すには:ブナ、コナラ、カバノキなどが生育する既成の林地を維持してください
• 菌糸ネットワークを損傷させるため、樹木の根元の土壌を撹乱しないでください
• 本種が必要とする腐植層を維持するため、落ち葉はそのままにしてください
• 菌根の形成を抑制する可能性がある、高濃度の窒素肥料の施用は避けてください
• 実験的な林業の現場では、苗木への胞子接種により菌根共生関係を確立させる試みが行われています
豆知識
アメシスト・ディーシーバーの劇的な色の変化は、菌界において最も驚くべき現象の一つです。 • あの鮮やかな紫色の色素は、ラッカリア属に固有の化合物群に属しており、これらはラッカウリンと呼ばれるポリエン色素です。これらは光、水分、経年変化に対して非常に敏感です • 一度の豪雨だけで、新しく出現したキノコは、数時間のうちに深いアメシスト色から淡いライラック色へと漂白されてしまいます • この極端な色彩の変異性こそが、まさに「ディーシーバー(欺く者)」という名の由来です。採集者も菌類学者も、色あせた個体を全く別の種だと誤って同定してしまうことがあるからです • 白色の胞子紋は決定的な同定特徴です。これにより、外見は似ていても異なる色の胞子紋を作る他の紫色のキノコ数種と、ラッカリア・アメシスティナを区別することができます • ラッカリア属の種々は、実験室条件下で培養に成功した数少ない外生菌根菌の一つであり、菌根生物学や森林生態学を研究する上で重要なモデル生物となっています • 分子研究により、かつてラッカリア・アメシスティナと呼ばれていたものは、実際には数種の近縁な種からなる複合体(種群)である可能性が示されており、その一部は DNA 分析を通じてのみ識別可能です
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