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バビロフライムギ

バビロフライムギ

Secale vavilovii

バビロフライムギ(Secale vavilovii)は、イネ科に属する野生の一年生草本種であり、栽培ライムギ(Secale cereale)に極めて近縁です。この種は、作物の野生近縁種や栽培植物の起源中心地の研究を開拓したことで知られる、著名なロシアの植物学者・遺伝学者ニコライ・バビロフにちなんで命名されました。

• 栽培ライムギの野生の祖先種の一つであり、農業遺伝学において極めて重要な意義を持つ植物です
• 病害抵抗性や環境ストレス耐性を含む、豊富な遺伝的多様性の源を有しています
• 世界中のライムギ育種プログラムにおいて、重要な遺伝資源と見なされています
• 一年生草本であり、単一の生育季節内で生活環を完了します

分類

Plantae
Tracheophyta
Liliopsida
Poales
Poaceae
Secale
Species Secale vavilovii
Secale vavilovii は南コーカサス、中東、中央アジアの一部を原産地としており、これらはバビロフが多くの穀物作物の起源中心地として特定した地域です。

• 主な分布域は、トルコ、イラン、イラク、南コーカサス(アルメニア、アゼルバイジャン、ジョージア)、および中央アジアの一部を含みます
• 通常、中高度の山地や丘陵地帯で見られます
• 大陸性から半乾燥気候の地域に生育し、しばしば攪乱された環境、畑の縁、開けた草原などに自生します
• この種は栽培ライムギの二次遺伝子プールに属しており、有益な形質を導入するために S. cereale と交配可能です
• 20 世紀初頭におけるニコライ・バビロフによるこれらの地域への遠征は、作物の野生近縁種の収集と記録において決定的な役割を果たしました
バビロフライムギは一年生で、主に自家受粉しますが、時に他家受粉も行う草本であり、Secale 属に典型的な形態的特徴を有しています。

稈(茎):
• 直立し、細いものから中程度に頑丈なものまであり、高さは通常 60〜120 cm です
• 節間は中空で、節にはわずかに軟毛が生えている場合があります

葉:
• 葉身は線形で平ら、幅は通常 5〜15 mm、長さは 10〜30 cm です
• 表面は無毛からわずかにざらついており、色は緑色からやや白粉を帯びた色まで変化します
• 葉鞘は滑らかか、わずかに毛が生えています。葉舌は短く膜質です

花序:
• 単一で細く、やや垂れ下がる穂(穂状総状花序)を持ち、長さは通常 5〜15 cm です
• 小穂は花軸に沿って互生し、それぞれに 2 個の稔性の小花を含みます
• 包穎は細く披針形で、護穎より短いです
• 護穎は披針形で、数センチに達する長さの硬い芒(のぎ:剛毛状の突起)を持ちます。これが本種を区別する特徴です

穀粒:
• 穎果(穀粒)は細長い長楕円形で、長さは通常 5〜8 mm です
• 成熟時でも護穎と内穎に固く包まれたままです(栽培ライムギとは異なり、穀粒は容易には脱落しません)
• 色は黄褐色から茶褐色まで変化します

根系:
• 一年生草本に典型的な、比較的浅いひげ根を持ちます
バビロフライムギは、自生地において半乾燥地帯から亜湿潤地帯に至るまでの多様な環境に生育しています。

生育地:
• 開けた草原、岩場、斜面、畑の縁、道端、攪乱された土地
• しばしば肥沃な三日月地帯(フェルティル・クレセント)の他の野生穀物やイネ科植物と混在して見られます
• 低地から標高約 1,500〜2,000 メートルまでの範囲で生育します

気候:
• 冬が寒冷で夏が温暖かつ乾燥する地域(大陸性から半乾燥気候)に適応しています
• 乾燥条件や痩せた岩の多い土壌にも耐性があります
• 個体群によっては、開花のために春化(低温への曝露)を必要とします

繁殖:
• 主に自家受粉(自家不和合性ではなく自家和合性)しますが、風媒花による他家受粉も一部で起こります
• 種子は主に重力と人間の活動によって散布され、特殊な散布機構は持ちません
• 発芽は地域の気候に応じて秋または早春に行われます

生態学的役割:
• コーカサスや中東における野生草原生態系の構成要素として機能します
• 野生の草食動物の飼料や、穀食性の鳥類の餌を提供します
• その遺伝的多様性は、穀物作物の改良に向けた適応形質の生きた遺伝子庫となっています
重要な遺伝的価値を持つ野生の作物近縁種として、Secale vavilovii は自生地における生息地の喪失や農業の集約化により、保全上の懸念に直面しています。

• トルコ、イラン、コーカサス地方の一部では、過放牧、土地転換、都市化により野生個体群が脅かされています
• この種は、ロシア・サンクトペテルブルクにあるバビロフ植物産業研究所(VIR)や、乾燥地域農業研究国際センター(ICARDA)など、複数の国際的な遺伝子銀行で保存されています
• 現地内(in situ)保全の取り組みは限られていますが、野生個体群における進化的プロセスを維持する上で重要であるとの認識が高まっています
• 国連食糧農業機関(FAO)やバイオバーシティ・インターナショナルなどの機関により、作物野生近縁種保全の優先種として分類されています
バビロフライムギは商業作物として栽培されることはなく、育種や保全の目的で研究用コレクションや遺伝子銀行で維持されています。

日照:
• 直射日光を好み、日陰のない開けた環境に適応しています

土壌:
• 痩せた土地、岩の多い土地、石灰質土壌にも耐性があります
• 肥沃な農地を必要とせず、有機物含量の少ないやせた土地にも適応しています
• 水はけの良い土壌を好みます。過湿には耐えられません

水やり:
• 根付いてしまえば耐乾性があり、降雨量の少ない地域に適応しています
• 研究用圃場では、極めて乾燥した条件でない限り、追加の灌漑は通常不要です

温度:
• 耐寒性があり、冬に氷点下の気温になる地域に適応しています
• 涼しい季節の条件(10〜20°C)で最適に生育します
• 多くの個体群では、開花のために春化を必要とします

増殖:
• 種子によって増殖します
• 種子は通常、秋または早春に播種されます
• 発芽率は変動することがあり、一部の種子は休眠を示すため、発芽を打破するために低温層積処理が必要になる場合があります
• 遺伝子銀行では、長期保存のために種子を低水分含量(約 5〜7%)まで乾燥させ、低温(-18°C)で保存します
バビロフライムギの主な価値は、直接的な農業利用や商業利用ではなく、作物改良のための遺伝資源としての役割にあります。

作物育種:
• 茎黒さび病、葉さび病、うどんこ病などに対する病害抵抗性の遺伝子源となります
• 乾燥耐性や痩せ地への適応性に関する遺伝子の供給源となります
• 現代のライムギ品種の遺伝的基盤を広げるため、栽培ライムギ(Secale cereale)との広域交雑プログラムで使用されています
• S. vavilovii 由来の遺伝子は、コムギとライムギの雑種作物であるライコムギ(× Triticosecale)にも導入されています

科学研究:
• ライムギの栽培化のプロセスを理解するためのモデルとして研究されています
• 栽培ライムギの起源と拡散を追跡するための集団遺伝学および系統地理学の研究に使用されています
• ニコライ・バビロフの提唱した「作物起源中心説」に関する研究において重要です

飼料:
• 自生地では家畜に採食されることがありますが、飼料作物として栽培されることはありません

豆知識

この種の名の元となったニコライ・バビロフは、20 世紀を代表する偉大な植物学者の一人であると同時に、科学史上において最も悲劇的な人物の一人でもあります。 • バビロフは 60 カ国以上を旅して種子や植物標本を収集し、レニングラード(現在のサンクトペテルブルク)のバビロフ研究所に世界最大級の種子銀行の一つを築き上げました • 彼は作物の多様性が最も高い地理的領域である 8 つの「起源中心地」を特定しました。この説は今日の農業科学において基礎的な理論となっています • 悲劇的なことに、バビロフはトロフィム・ルイセンコの疑似科学説に反対したため、1940 年にソ連当局によって逮捕され、1943 年に 55 歳で獄中で死去しました • レニングラード包囲戦(1941〜1944 年)の間、バビロフ研究所の科学者チームは、飢えた市民に食べられてしまうことから種子コレクションを守り抜きました。彼らは何粒も口にすることなく、数人が餓死しながらもコレクションを守り通したのです Secale 属には魅力的な進化的物語があります。 • 栽培ライムギ(Secale cereale)は、コムギやオオムギのように意図的に栽培化されたわけではおそらくなく、もともとはコムギやオオムギ畑の雑草であったものが、やがてそれ自体有用な作物として認識されるようになった可能性があります • ライムギは、コムギが育たないような寒冷で痩せた土地でも生育できる能力により、北ヨーロッパおよび東ヨーロッパ全域で主食穀物となりました • Secale vavilovii は、この重要な穀物の野生の祖先へとつながる生きた架け橋であり、世界で最も過酷な環境の一つにおいて数千年にわたる自然選択によって形作られてきた遺伝的な設計図を保持しています

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