デュラム小麦(Triticum turgidum)は四倍体の小麦種であり、人類の歴史において最も古くから栽培されている穀物の一つです。世界中でパスタ、クスクス、セモリナを主原料とする製品の主要な原料として利用されています。
• イネ科に属し、地球上で最も経済的に重要な植物科の一つである
• 四倍体(2n = 4x = 28 染色体)であり、六倍体であるパン小麦(Triticum aestivum)と区別される
• 世界の小麦生産量の約 5〜8% を占める
• 他の小麦種と比較して、きわめて硬い粒と高いタンパク質含有量で知られる
• 属名「durum」はラテン語に由来し、「硬い」を意味し、その粒の硬度に言及したものである
• 約 1 万年前に野生のエーマー小麦(Triticum turgidum subsp. dicoccoides)から栽培化された
• 新石器時代の農業革命において最初期に栽培化された穀物の一つ
• レバント地方やアナトリア半島の遺跡からは、紀元前 7500 年頃にさかのぼる栽培化デュラム小麦の考古学的証拠が発見されている
• 古代の交易路を通じて地中海盆地全域へ広がり、ローマ時代およびその後のイタリア農業の主食となった
• 現在の主要生産国は、カナダ、イタリア、トルコ、アメリカ合衆国(特にノースダコタ州およびアリゾナ州)、アルジェリア、メキシコである
茎(稈):
• 中空で直立し、円筒形。節は 5〜7 個
• 直径は通常 3〜5 mm
• 適度に堅く、ある程度の倒伏抵抗性を示す
葉:
• 互生する単葉で、線状披針形の葉身は長さ 15〜40 cm、幅 1〜2 cm
• 葉鞘は無毛〜やや有毛
• 葉耳は短く膜質
• 耳葉(オーリクル)は短く茎を抱く
花序:
• 密で側扁した穂(穂状花序)。長さ 5〜12 cm
• 小穂は花軸の両側に互生し、それぞれ 2〜5 個の小花を含む
• 包穎は硬く竜骨があり、外穎にはしばしば長く硬い芒(のぎ)をもち、品種によっては 10〜15 cm に達する
穀粒(穎果):
• 大きく硬く、琥珀色の粒。通常 6〜9 mm
• 粒の硬度が決定的な特徴であり、パン小麦より著しく硬い
• タンパク質含有量が高いため、胚乳はガラス質(ガラス様)の外観を呈する
• 千粒重:約 40〜55 g
根系:
• 繊維状の不定根系で、深さ 60〜100 cm まで伸張
• 水分や養分の効率的な吸収のため、広範な側根を形成する能力がある
気候要件:
• 至適生育温度:生育期間中で 15〜25℃
• 年間降水量 250〜500 mm が必要だが、より乾燥した地域では灌漑が一般的に用いられる
• 登熟期の過剰な湿度や降雨には弱く、糸状菌性病害を助長する
• パン小麦と比較して乾燥耐性があり、雨頼み農業に適する
土壌:
• 水はけの良い肥沃な壌土または粘質壌土を好む
• 至適 pH 範囲:6.0〜8.0(アルカリ性土壌にもある程度耐える)
• 冠水状態には耐えない
作期:
• 通常、秋まき(冬性デュラム)または早春まき(春性デュラム)
• 生育期間:播種から収穫まで約 110〜160 日
• 収穫は晩春から初夏にかけて行う
生態系における役割:
• さまざまな草原性の昆虫や鳥類に生息地と餌を提供
• マメ科作物との輪作により土壌窒素量の向上が図れる
• フザリウム穂枯れ病、さび病(茎さび病、葉さび病)、セプトリア葉斑病などの病害にかかりやすい
日照:
• 最適な生育と穀粒の発育には終日直射日光が必要
• 1 日あたり最低 6〜8 時間の直射日光を要する
土壌:
• 水はけの良い肥沃な壌土または粘質壌土を好む
• pH 6.0〜8.0。アルカリ性および塩類条件にある程度耐える
• 冠水しやすい重粘土は避ける
水やり:
• 中程度の水要求量。生育期間中で 250〜500 mm
• 重要な灌漑時期:分げつ期、出穂直前期、登熟期
• 登熟期の過剰な灌水は病害リスクを高め、穀粒品質を低下させる
温度:
• 至適生育温度:15〜25℃
• 耐寒性品種は分げつ期に−10℃までの短期間の霜に耐えうる
• 登熟期の 35℃を超える高温ストレスは収量と品質を低下させる
作付け:
• 播種量:地域と品種によるが 100〜150 kg/ha
• 播種深:3〜5 cm
• 条間:15〜25 cm
• 冬性タイプは秋(北半球では 10〜11 月)に播種
• 春性タイプは作土可能な限り早く(2〜4 月)播種
繁殖:
• 種子繁殖のみ。商業的には栄養繁殖は行われない
• 遺伝的純度と無病性の確保のため、認定種子の使用を推奨
主な問題:
• フザリウム穂枯れ病 — フザリウム属菌が原因。ヒトや家畜に有害なマイコトキシンを生産
• さび病類(Puccinia 属)— 抵抗性品種による防除を怠ると収量に大きな損失をもたらす
• 倒伏 — 草丈の高い品種は強風時や多雨条件下で倒れやすくなる
• ヘシアンフライ(Mayetiola destructor)— 一部の産地で主要な害虫
豆知識
デュラム小麦は、人間の食用として広く栽培されている唯一の四倍体小麦種であり、その特異な性質は世界の食文化において代替不可能な存在です。 • デュラム小麦のきわめて硬い粒と高いタンパク質含有量(通常 12〜16%)により、高品質なパスタ製造に唯一適した小麦となっています。他のどの小麦でも、調理時に同じような芯のあるアルデンテの食感を生み出すことはできません。 • 高級パスタの黄金色は、一般に思われているような卵ではなく、デュラムのセモリナに含まれる天然のカロテノイド色素(主にルテイン)に由来します。 • イタリアでは 1 人あたりのパスタ消費量が年間約 60 kg に達し、デュラム小麦製品の一人あたり消費量で世界最大です。 • デュラム小麦はローマ帝国の主食でした。ローマ兵士には報酬の一部として穀物が支給され、小麦は経済的にきわめて重要だったため、通貨の一種としても用いられました。 • 野生のエーマー小麦からデュラム小麦が栽培化されたことは、遊牧的な狩猟採集社会から定住型農耕文明への移行を可能にした画期的な出来事の一つであり、人類の歴史を根本から形作り直しました。 • カナダはデュラム小麦の世界最大の輸出国であり、サスカチュワン州だけでも毎年数百万トンを生産し、世界のパスタ・クスクス市場へ供給しています。
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